「読む」ことの困難とは?

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「読む」ことの困難とは?(3)

音声教材を活用するためには、ただ音声教材を用意するだけでは上手くいきません。
自宅など個人的に利用する場合は別として、特に学校など公的な場所で利用するためには、次の3つの点をクリアしておくことが必要です。

(1)学校などに利用することを認めてもらう。
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当たり前のように思えるかもしれませんが、実はこれが利用するための一番高い壁です。
筆者の私が、これまで子どもたちや保護者の相談を受けてきた中で多かったのが、管理職や学級担任から受けた以下のような説明です。
「学校に利用するための設備や機器がない。」
「校内に利用したり、指導したりできる教職員がいない」
「個人の機器(タブレット)を持ち込むことは携帯電話と同様に禁止されている。持ち込むためのルールや体制が整っていない。」

私も音声教材の利用について講演した時、講演後に中学校の管理職から直接言われたことがありました…
「高校受験の時に使うことができなくて悲しい思いをさせるのなら、最初から(音声教材を)使わない方がいいですよね」

2016年(平成28年)に施行された「障害者差別解消法」の第3章 差別解消措置(7条~13条)には、「不当な差別的取り扱い」の禁止と「合理的配慮提供」の義務化が記されています。
ここにある「合理的配慮」という文言にしたがって音声教材を利用できたとしても、これは障害者に対しての取り組みであり、「読む」ことに困難があることは、医療機関によるLDなどの診断書がなければ、
「児童生徒本人の努力が足りない」
「配慮をすることは、他の児童生徒との公平性に欠ける」
と学校側から判断されてしまうことがあります。中学校の事例で、授業では音声教材を利用させてもらえたが、障害の診断がないために定期試験では利用させてもらえなかったというものもありました。

また、学校で利用を認められたとしても、行政側からストップをかけられることがあります。
機器の購入やアプリのインストールの時に、市町村の情報セキュリティ 上の理由で認められなかったり、対象の児童生徒が利用する理由について、これまでの指導経過報告書や医療機関の診断書など何枚もの書類を作成して提出しなければならなかったりと、なかなか利用するまでに至らないケースもあります。

(2)校内及び学級内の児童生徒と保護者に利用することを理解してもらう。
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これは、学校の管理職や教職員が行うことですが、障害者理解については大人の世界と同様に、すべてが上手くいくわけではありません。児童生徒や保護者から、
「あの子だけ使うのはずるい」
児童生徒から、
「何でそんなの使ってんの?」
「字が読めないの?」
と、利用する子が萎縮したり、いじめの対象になったりします。緘黙や吃音と同様に周囲に間違った理解をされてしまう可能性もあります。その様な環境の中では、利用したい児童生徒も、
「自分だけ使うのは嫌だ…」
「恥ずかしい…」
と、利用することをやめてしまいます。

(3)本人が利用したいという意志がある。
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根本的なことかもしれませんが、周囲が音声教材を利用した方が良いと思っても、児童生徒本人に利用したいという意志がなければ、使い始めたとしても継続は難しいと思います。
学校側からも、
「本人が利用する意欲がないので…」
「本人が使いたくないと言っているので…」
と、言われて利用をやめることになってしまいます。特に(2)に挙げたような環境下では、
「使えって言われたから使ったのに…」
と、児童生徒との信頼関係も悪化する負のスパイラルになりかねません。

以上のことは、音声教材を利用する以前に留意しておく話です。学校では令和3年度から一人1台PCの状況になったことで、(1)と(2)の一部分の課題はクリアできることになるかと思います。
ですが、デジタル教科書や音声教材を利用するために、やはり大事なことは以前と変わらず、利用する子への「配慮」と教室のハード面(Wifi環境やPCの保管場所など)及びソフト面(障害者理解のある学級経営など)の「環境調整」でしょう。
では、指導方法を含めた「配慮」、留意点については次回に。
☆「読む」ことの困難とは?(4)に続く…